2023年9月7日号 |
幽玄の世界 4年ぶり
まほろば唐松定期能公演
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大仙市は2日、大仙市協和のまほろば唐松能楽殿で「まほろば唐松 定期能公演」を4年ぶりに開催した。市内外から約200人の能楽ファンが訪れ、時空を超えた幽玄の世界に酔いしれた。
演目は能「清経」(シテ 栗谷明生)、狂言「昆布売り」(同 石田幸雄)、仕舞「松風」(友枝昭世)、能「猩々乱」(同 佐々木多門)の四曲。
「清経」は世阿弥の修羅能の傑作。入水した清経の霊が死に至る顛末や死後の修羅道の苦しみを語って舞う場面が見どころとなっている。
平家一門が都落ちした後、都でひっそりと暮らす平清経の妻のもとに、家臣の淡津三郎が清経入水の知らせを持ってやって来る。淡津は清経の形見として遺髪を渡そうとするが、妻は再会の約束を果たさなかった夫への恨みと深い悲しみから、遺髪を返してしまう。
亡夫への想いを募らせる妻の枕元に、清経の霊が現れる。再会の喜びもつかの間、妻は再会の約束を果たさなかった夫を責め、夫は遺髪を返した妻の薄情を恨み、夫婦はお互いを恨み合って涙する。
やがて清経の霊は死に至るまでの様子を語り始め、死後の修羅道の苦しみを表す。しかし死の直前に唱えた念仏の功徳により救われ、成仏する。
「猩々乱」は祝賀の趣を持った一曲。中国・揚子江のほとりに住む高風という孝行息子が、不思議な夢のお告げにより酒を売って成功を収める。高風が店を出す市にいつも来る客で、酒をいくら飲んでも顔色ひとつ変わらない男がいた。不審に思って名を尋ねると、海中に住む猩々だと名乗る。酒を持って出かけた高風が川べりで待っていると、やがて赤ら顔の猩々が現れた。
猩々は友の高風に逢えた喜びを語り、酒を飲んで舞を舞う。そして高風の素直な心を褒め、これまでの礼にと酌んでも尽きない酒の壷を贈る。それは高風の夢の中の出来事だったが、酒壷はそのまま残り、高風の家は末永く繁栄する。
真っ赤な顔で愉しく舞う猩々に、観客はじっと見入っていた。
昆布の行商人と武士の立場が逆転するおかしさが魅力の「昆布売り」では、シテとアドのコミカルなかけ合いに会場から笑いが起こった。
大曲地域から訪れた70代女性は「清経は何度か観ているが、今日は言葉一つひとつがスッと耳に入ってきて楽しめた。若い頃はうまく汲みとれなかったものが今はわかる。コロナで公演が中断していたのは残念だったが、ブランクがあったことで余計によく感じ取れたものもあった」と話した。
※写真は
世阿弥の傑作「清経」
会場の笑いを誘った「昆布売り」
「猩々乱」の一場面
力強い地謡
盛り上げる囃子方
猩々の舞
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